誤解です、ただの犬の散歩ですってば。(2)

さて、ちょっと小デブのずっしりしたチワワをキャリーバッグに入れて、「どっこいしょ。」と重そうに担ぎ直した私。そこから歩いて5分もしないうちに自宅マンションに着きました。

エントランスのドアを押し開けると、目の前におまわりさんが一人、こちらに背中を向けて立っていました。

ここはオートロック式なので、誰かを訪問して開錠してもらわなければ奥のエレベーターホールへ入れません。

「なんでここにおまわりさんがいるんだろう?巡回で来ても勝手に中に入れないのに」とちょっと不思議に思ったのですが、とりあえず“善良な一市民”である私は

「こんにちは。」と声を掛けました。

振り向いたおまわりさんは私の顔を見て明らかにギョッとしました。

「あ、あ、あなた、あなただっ!」

おまわりさんはやけに興奮して私を指さします。

「はい?」

「あ、あ、あなたね、あなたね、さっきあそこの◯◯通りに立っていたでしょ?」

おまわりさん、必死でにこやかに笑いながら、でも早口で興奮して話しかけてきました。

「ええ、そうですけど??」

「あなたずーーーっとあの通りに立ってましたよね。20分くらい。ああっ、私、◯◯署のIと申します。いやーー暑いですねー、今日は。」

・・・何が言いたいんだろう?(-_-)

「ええ、犬の散歩をしてたんです。この子、あそこで動かなくなったので、それでずーーーっと立ってたんですけど。(それが何か?)」

と左肩に担いでいるキャリーバッグの中からちょこんと顔を出しているうちのKを指さしました。

しかし彼は犬の方を見ようともせず、じっと私を見つめながら愛想笑いだけは続けています。

「いやーーー、あははは、この暑い中、ずっと立っていて大変ですねー、いやー、この辺はねー、精神を病んでいる人が多いんですよ。あなたも気をつけて下さいね、アハハハ。」

はぁ?そんなに病んでる人ばかりですか?この辺。いや、それはちょっと大げさじゃないの?

とはいえ、つまらない疑いを持たれたくないのと、相手の愛想笑いに釣られてこちらもニコニコ笑いながら「善良な一市民」をアピールする私。

「そうですか、私も気をつけます。この暑い中、いつもご苦労様です。」

そう言ってこれで話を終えてオートロックを開錠しようとしたのですが、おまわりさんはどいてくれません。どうやら私に用があるみたいです。

おまわりさんはアハアハ笑いながら話を続けます。

「時にあなた、あのとき、こう、腰をかがめて何かを拾いましたね?」

「え?ああ、あれですか。いえ、この子の体についたツツジの枯れた花とか小枝とかのゴミを取っただけですよ。というか、おまわりさん、近くに居たんですか?」

なんでそんなどうでもいい細かいことを聞くんだろう、それにどこから見てたんだろう、あのときどこにも人影なんてなかったし。

「ああ、そうです、はい、ちょっと遠くから見かけまして。あ、それで・・・あなた、棒か何か拾いませんでしたかねぇ?たとえば・・・鉄の棒、とか・・・鉄パイプ、とか?エヘヘヘ。」

おまわりさん、「鉄の棒」と「鉄パイプ」のところだけヤケに声を潜めてゆっくりしゃべった。こちらの様子を窺うようにニヤニヤ笑いながら。

「はぁっ!?今も言いましたけど、この子の体に貼り付いたゴミを取って捨てただけです!」

さすがに私も声を荒げた。

「いやーー、アハハハハ、そうですか、そうですか、いやー、今日は暑いですねー。あ、私、◯◯署のIと申します。よろしく!」

聞いたよ、お前の名前は!二度も名乗るなよ!何緊張してんだ、この野郎。

だんだん腹が立ってきた。腹が立ってはきたけど、そこは大人&善良な一市民。

相手に合わせてこっちもニコニコ笑いながら

「なーーーんで私が鉄パイプなんか持たなきゃいけないんですかぁ、どこにそんなものが落ちてるんです?私はただ、犬の体にくっついた花と小枝なんかを取っ払っただけですよーー。」

もう、おまわりさんたらぁ、このイケズぅ♪みたいな雰囲気で余裕かまして軽く抗議。

が、おまわりは(もう、呼び捨てだ!)さらにこんなことをたたみかけてきやがった。

「あのね、その後あなたは左肩に何かを担ぎ直していましたよね。

それって・・・もしかして・・・

撮影機材か、何か?」(手もみが似合いそうなゲス笑いを浮かべて)

はぁぁぁああああ!?(怒)

もう、お姉さん、勘弁できまへんわ。

「いや、だからぁ、ほら、この子。見ればわかるでしょ、この子をバッグに入れてこうして肩にかけただけですよ!」

竹中直人もびっくりの怒り笑いをしながら答える私。

しかし、奴(もう奴でいいよ、こいつ。)にはまるで犬とキャリーバッグが目に入っていないかのように、相変わらずしっかりと私の目を見つめてゲス笑いを浮かべていた。

「いやーー、ハハハハ。あーそうですか、今日は暑いですねー。あ、私◯◯署のIです、よろしく!」

3度目だよ!!何をそんなに怯えてるんだ!大体なんで私の顔から視線をはずさないんだ!

それってまるで・・・

「目の前の出口はこの精神を病んでいるかもしれない女が立ちふさがっている。後ろのドアは誰かが解錠しない限り開かない。俺は退路を断たれた袋のネズミ。

ちょっとでも視線をはずしたらダメだ!その一瞬の隙をついてこのイカれた女は後ろ手に隠し持った鉄パイプを振り上げるだろう!」

とかなんとか考えてんのか、こいつはっ!!

そのあと奴に部屋番号まで聞かれて正直に答えた私。心の中では嵐が吹きすさんでいたけれど、そこはなんとか“いきみ”を逃して(笑)お互いヘラヘラ笑いながら紳士的に会話を終了。奴は帰っていった。

・・・なんだったんだ、あれは。

これは私の想像ですが。

あのおまわりさんは現場に居なかったと思います。

少し離れたところから見ていたのなら、鉄パイプや撮影機材なんかどこにも存在してないことくらいわかるはずです。

おそらく。

X邸の中で監視カメラごしに目の薄いであろう管理人のジイサンが見てて警察に通報したのではないだろうか。

ジイサンの立場になって考察してみよう。

「屋敷の真向かいに変な女が仁王立ちして立っている。

この強い日差しの下、いつまでもずーーーと、何をするでもなく。(Kが動かないんだよっ。)

あ、動いた。しゃがんで何かを拾った!(ゴミだよっ)

今度はうなだれたまま、なにやらブツブツつぶやいている。(Kに帰ろうよって言ってただけだよっ。)

おお、今度はずっしりした何かを左肩に担ぎ上げた!(小デブなんだよ、うちの犬はっ。)

大変だーーー!襲撃されるぞーー。」

 

・・・じいさん。じいさんさ、今までそんなことあったの?ん?(; ̄ー ̄)…ン?

鉄パイプ持った奴が門を乗り越えて襲撃かけたり、撮影機材片手にスパイかマスコミが屋敷に忍びこんだりとかしたの?だとしたら大変だねー、Xさんちも。うんうん、わかる、わかるよーーー。

・・・わかるかっ!!(怒)

 

しかし、謎が残ります。警察を呼んだのなら、なんでその場で職質かけないんでしょう?屋敷の前で騒ぎを起こしたくなかったから?

それで先回りしてマンションで待っていた?私は何年も前からあの門の真向かいにしょっちゅう立っていたので、既に身元の調べはついていた?さすがX氏!警察まで動かせるのね。(サスペンスものの見過ぎ。)

どうもよくわからない事件(私にとってはね。)でした。

で、今回思ったことが一つ。

おまわりさんが職質をかけるとき、笑顔を絶やさないようにするのはいいことだと思います。庶民の味方だしね。

でも、今回、正直言って私は良い気持ちはしませんでした。

あんなにヘラヘラ笑って様子伺い・ご機嫌伺いのように下手に出られると、こちらも調子狂っちゃって、怒りの持って行き場がありません。しかも笑いながら質問する内容があんなにエグくて失礼でバランスがとれてません。

疑われた怒りプラス、媚びられた不快感がつきまといます。かといって仏頂面で職質かけられたら、それはそれで怒りを引きずっちゃうかもしれません。(経験ないのでわかりませんが)

まあね、おまわりさんも大変だと思うんですよ。笑顔で接してないと一般市民からどんな苦情が来るかわかりませんし。でも、媚びて欲しくないなー。

結局、笑顔だろうが仏頂面だろうが、尋ねる人の品性の問題だと思います。そこにその人の誠実みや人間性、徳性というものが備わっていれば、どっちだっていいのかもしれません。

ま、ともかく。おまわりとか奴とか呼び捨てにしてごめんね、Iさん。私も口が悪いからさ、その分、もう、今はなんとも思ってないから。今日もがんばって市民の安全を守ってくださいね!(^^)/

教訓:よい子は大きなお屋敷の前で立ち止まっちゃダメだぞー。

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